「補償の細かいことは分からないから、お任せします」。募集の現場で、いちばんよく聞く言葉かもしれません。
この一言のあと、どう比較推奨販売するか。そこに今回の改正の焦点があります。金融庁は令和8年(2026年)8月28日、乗合代理店の比較推奨販売について、内閣府令と監督指針の改正、そしてパブリックコメントの結果を公表しました。内閣府令の施行および監督指針の適用は令和10年(2028年)3月1日。意見募集では133先から759件のコメントが寄せられ、金融庁が考え方を示しています。
この記事では、759件(別紙1)への金融庁の回答から、保険募集人が迷いやすい場面を選んで読み解きます。個別の該当性は事情によって異なります。最終的な判断は、一次情報と所属保険会社の指針、専門家の確認にもとづいてご検討ください。
この記事の要点
- いわゆるハ方式は廃止。残る本丸はロ方式(推奨販売)です。
- ロ方式は厳しい。手数料・販売目標・便宜供与などの代理店都合や、募集人の主観・属人的判断は推奨理由にできないとされています。事後的に確認・検証できる基準と理由が求められます。
- 施行・適用は2028年3月1日。ただし金融庁は、施行日・適用日を待たずに体制整備することが望ましいとしています。
- 一律の様式は示されていません。 記録フォーマット、保存期間、全件確認も、一律には求められていません。
1. まず、いつから何が変わるのか
ここだけ覚えるなら: 日付が2つある。混ぜると話がかみ合わなくなります。
別件(この記事の主題ではない)
2026年6月1日施行
特定大規模乗合等の体制整備(2026年3月30日公布)
この記事で扱う改正
2028年3月1日 施行・適用
比較推奨販売(情報提供規定)(2026年8月28日公布)
金融庁は、時間差を設けた理由をこう書いています。
今般、改正する内閣府令及び監督指針の適用にあたっては、乗合代理店における実務上の体制整備等に要する時間に配慮し、相応の適用期間を設けることとしております。 — 公表ページ「1.改正の概要」
「では2028年まで待てばいい」とは書かれていません。同じページに、次の一文があります。
改正後の内閣府令の施行日及び監督指針の適用日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行い、比較推奨販売を適切に実施されることが望ましいと考えます。 — 公表ページ「1.改正の概要」
もうひとつ、押さえておきたい注意書きがあります。権限明示義務と意向把握義務は、今回の改正の対象外です。いまも適時・適切に対応する必要があります。
「権限明示義務」(保険業法第294条第3項)や「意向把握義務」(同法第294条の2)につきましては、今般の改正の対象外であり、現時点においても、適時・適切に対応する必要があることに留意して下さい。 — 公表ページ
ハ方式は廃止。残る本丸はロ方式
いわゆるハ方式は廃止されます。別紙1でも、改正の趣旨として次のように書かれています。
保険業法施行規則第227条の2第3項第4号ハの廃止の趣旨に照らして、手数料水準、販売目標、便宜供与、資本・取引関係など代理店の都合や、保険募集人の主観的又は属人的判断に基づく事項を基準・理由とすることは、不適切な提案に該当し得るため適切ではありません。また、特定の保険会社の事務への精通等、顧客意向との関係で合理性・具体性に乏しく、顧客の比較判断に資しない事項を理由とすることも適切ではありません。 — 別紙1 No.71(抜粋)
残るのは、顧客の意向に沿って保険契約を選別し、提示・推奨するロ方式(推奨販売)です。「二以上の比較可能な同種の保険契約」の中から選ぶ。概要と提案理由を説明する。
ロ方式の厳しさは、次の3点に集約できます。
- 代理店都合は理由にならない。 手数料水準、販売目標、便宜供与、資本・取引関係は挙げられています(No.71)。事務への精通も、顧客の比較判断に資しないとして適切ではないとされています。
- 募集人の主観・属人的判断も足りない。 「自分がこれがいいと思う」では基準にならない、という書き方です(No.71)。
- あとから同じように確認できること。 合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由で説明し、意向の変化の経緯や提案理由を記録し、事後的に確認・検証できる態勢を整備することが重要とされています(No.71 / No.14 / No.156)。
実質的に旧ハと同じ運用と評価され得る場合は、潜脱に該当し得ます。
実質的に従前の保険業法施行規則第227条の2第3項第4号ハと同様の運用を行っているものと評価され得る場合には、比較推奨販売規制の潜脱に該当し得ます。 — 別紙1 No.302(抜粋)
2. 募集現場への影響
日々の募集で、次のような状況に当たることがあります。改正後は、判断の仕方や記録の観点が変わり得ます。自分の業務のどこに当たるかを見ながら読んでください。
場面1「お任せします」と言われた
ここだけ覚えるなら: 「お任せ」は意向の確定ではなく、意向の形成・明確化の入口として扱われています。
これまで(ありがちな運用)
一任されたら、担当者の判断で1社に絞って提案する。これから(改正後に求められる考え方)
重視し得る事項を確認し、基準や理由を踏まえて選別・提示する。一任されたのだから、募集人が任意に特定の保険会社・保険契約を選別して提示・推奨してよい。これは適切ではないとされています。
顧客が「あなたに任せる」、「あなたが良いと思う商品にする」などと述べた場合であっても、その意思表示のみをもって、乗合代理店が任意に特定の保険会社又は特定の保険契約を選別し、提示・推奨することは適切ではありません。 — 別紙1 No.14(抜粋)
ではどうするか。金融庁が挙げているのは、保障(補償)内容、保険料水準、特約等、顧客が重視し得る事項を確認し、可能な限り意向の形成を促し、又は意向の明確化に努める手順です。
保障(補償)内容、保険料水準、特約等、顧客が重視し得る事項を確認するなど、可能な限り意向の形成を促し、又は意向の明確化に努めた上で、把握した顧客の意向に沿って、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由等に基づき、保険契約を選別し、提示・推奨することが重要です。 — 別紙1 No.14(抜粋)
それでも明確な意向が確認できないことはあります。その場合は、それまでに把握した当初意向、顧客属性、加入目的、既加入契約、保険料水準、必要と考えられる保障(補償)内容等を踏まえ、顧客の最善の利益を勘案し、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由等に基づき提示・推奨することが考えられる、とされています。
そして、はっきりした線引きがあります。手数料水準、販売目標、便宜供与等の代理店側の都合による誘導は適切ではありません。
ただし、手数料水準、販売目標、保険会社からの便宜供与等の代理店側の都合により、特定の保険会社又は特定の保険契約へ誘導することは適切ではありません。 — 別紙1 No.14(抜粋)
話法についての言及もあります。あらかじめ特定の保険契約を推奨することを目的として、「おすすめを希望する」と言わせる話法や導線は適切ではありません。
あらかじめ特定の保険契約を推奨することを目的として、顧客に「おすすめを希望する」と言わせるような話法や導線を設けること(中略)は適切ではありません。 — 別紙1 No.21(抜粋)
現場での確認ポイント: 「お任せ」のあと、重視し得る事項を確認したか、提示・推奨の基準や理由を記録したか。手数料水準や販売目標が理由になっていないか、説明できるか確かめる。
場面2「なぜこの保険契約なのか」を説明する
ここだけ覚えるなら: 社内規則には把握方法・確認方法・提示・推奨の基準や理由・説明方法・記録・検証方法を書く。個別の推奨理由は、募集場面で説明できるようにする。
これまで(ありがちな運用)
保険料一覧を見せ、安い順や社内推奨順で絞り込む。これから(改正後に求められる考え方)
絞り込む場合は基準や理由を合理的かつ具体的に説明できる態勢にする。社内規則に、全ての保険種類や個別顧客ごとの推奨理由を網羅記載する必要があるのか。答えは、そこまでは求めない、というものです。
全ての保険種類や個別顧客ごとの具体的な推奨理由を、あらかじめ網羅的に社内規則等へ定めることまで求めるものではありません。 — 別紙1 No.79(抜粋)
そのかわり、社内規則等には、保険募集人ごとに恣意的な運用とならないよう、顧客意向の把握方法、顧客が重視する事項の確認方法、提示・推奨する基準や理由、顧客への説明方法、記録・検証方法などを組織的に定めることが挙げられています(No.79)。個別の募集場面ではこうなります。
個別の募集場面では、把握した顧客意向に照らし、合理的かつ一定の具体性を有する理由を説明できるよう対応する必要があり、その適切性を事後的に確認・検証する必要があります。 — 別紙1 No.79(抜粋)
保険料のみの一覧表示についても言及があります。直ちに顧客の意向を踏まえた比較推奨販売と評価されるものではありません。全ての案件で取扱保険会社全社を網羅的に試算・説明することは一律に求められていません。ただし、比較対象を絞り込む場合は推奨販売に該当し得るため、基準や理由の説明が必要です。
単に保険料のみを一覧表示することは、直ちに顧客の意向を踏まえた比較推奨販売と評価されるものではありません。 — 別紙1 No.83(抜粋)
比較対象を絞り込む場合には、推奨販売に該当し得ることから、その基準や理由を合理的かつ具体的に説明する必要があります。 — 別紙1 No.83(抜粋)
現場での確認ポイント: 社内規則を、把握・確認・提示推奨・説明・記録検証の手順として見直す。個別案件では、保険料以外に何を見て比較対象を絞り込んだかを、合理的かつ一定の具体性をもって書けるようにする。
場面3「何社くらい比べればいいのか」
ここだけ覚えるなら: 比較対象の数に一律の下限や固定社数は設けられていません。
これまで(ありがちな運用)
「概ね5社」「うちの推奨3社」など固定数で運用する。これから(改正後に求められる考え方)
顧客意向と委託契約の取扱範囲に照らして、比較対象の範囲を説明する。現場でいちばん聞きたいところですが、社数の目安は示されていません。
比較対象とする保険契約の数について、一律の下限や固定的な社数を設けるものではありません。また、あらかじめ「概ね5社」など特定の件数を固定し、その件数に合わせて比較対象を選別することが当然に適切となるものではありません。 — 別紙1 No.48(抜粋)
では範囲はどう決まるのか。推奨販売の対象は、代理店委託契約等で取り扱う保険契約の中に「二以上の比較可能な同種の保険契約」があるかどうかで判断するとされています。乗合代理店が独自判断のみであらかじめ推奨保険会社群を設け、それ以外を比較推奨販売の対象外とすることは適切ではありません。
代理店委託契約等において定められた取扱対象となる保険契約の中から、乗合代理店が独自の判断のみで、あらかじめ、推奨保険会社群や比較対象保険会社群などを設定し、それ以外の取扱保険契約を比較推奨販売の対象外とすることは適切ではありません。 — 別紙1 No.58(抜粋)
現場での確認ポイント: 「うちの推奨保険会社群はこの数社」という運用があるなら、委託契約上の取扱対象との関係を確認する。社数ではなく、顧客の意向との関係で比較対象の範囲を説明できるかを見る。
場面4 更改で「前と同じでいいです」と言われた
ここだけ覚えるなら: 既契約と同条件・同等の補償条件であることのみをもって、比較推奨販売の規定の適用対象外とはなりません。
これまで(ありがちな運用)
満期案内は前契約と同じ内容で流し、比較の余地を示さない。これから(改正後に求められる考え方)
他契約を提案できることを明示し、主体的継続か選別・提案かを記録する。満期案内は件数が多く、時間もありません。それでも、次のように書かれています。
乗合代理店が行う案内(保険募集)が既契約と同条件又は同等の補償条件であることのみをもって、当然に比較推奨販売に係る規定の適用対象外となるものではありません。 — 別紙1 No.107(抜粋)
一方で、短期の損害保険契約については、既契約と同条件又は補償内容がほぼ変わらないプランの案内は「一概に否定されるものではない」としつつ、意向把握・確認義務を履行するための対応として条件が付いています。
顧客の希望に応じて他の保険契約を提案できることを明示すること、及び顧客のリスク状況や意向を適切に把握できるよう工夫して案内(保険募集)することが求められるものと考えます。 — 別紙1 No.107(抜粋)
顧客が主体的に、既契約と同内容又は大きく異ならない内容を希望し、一の保険契約が選択された場合はどうなるか。保険募集人による選別・提案が実質的に伴わないときは、直ちに第227条の2第3項第4号ロ方式(推奨販売)の対応が必要となるものではない、とされています。ここは以前からの考え方が引き継がれています。
保険募集人による選別・提案が実質的に伴うことなく、顧客の主体的な判断のみにより、既契約と同内容又はこれと大きく異ならない内容の保険契約を希望する旨が表明され、一の保険契約が選択された場合には、直ちに保険業法施行規則第227条の2第3項第4号ロ(推奨販売)に係る対応が必要となるものではありません。 — 別紙1 No.600(抜粋)
同じ回答の中で、平成26年改正時のパブリックコメント(No.89、No.534)の考え方を変更するものではない、とも書かれています。ただし、顧客の主体的判断か、保険募集人による恣意的な誘導がないかは個別判断とされ、顧客への案内又は説明内容や、顧客が表明した意向を証跡として記録・保存することが必要とされています(No.600)。選別・提案を行う場合は、ロ方式(推奨販売)を踏まえた対応が必要です(No.107)。
現場での確認ポイント: 更改の案内に、顧客の希望に応じて他の保険契約を提案できる旨を明示する。主体的な継続希望か、保険募集人の選別・提案が伴うかが、記録から分かるようにする。
場面5 比較ツールやランキング表示を使う
ここだけ覚えるなら: 比較ツール等の活用は一律の標準的要件ではない。単なる保険料比較やシステムの出力結果の提示のみをもって、意向把握又は比較推奨販売を履行したことにはなりません。
これまで(ありがちな運用)
システム出力を提示するだけで比較推奨の対応を済ませる。これから(改正後に求められる考え方)
表示順・比較ロジックを管理し、契約条件も含めて説明する。まず、ツールの導入自体が必須とはされていません。
これらのツール等の活用を、一律に募集管理態勢の標準的要件として求めるものではなく — 別紙1 No.35(抜粋)
そのうえで、はっきりした一文があります。
単なる保険料比較やシステムの出力結果の提示のみをもって、意向把握又は比較推奨販売に係る対応を履行したことにはなりません。 — 別紙1 No.35(抜粋)
ツールを使う場合の目配りとして挙げられているのは、掲載情報の正確性・最新性、比較の前提条件、保障(補償)内容、保険料算定条件、対象商品、表示順、比較ロジックなどです。顧客に誤認を与えないよう留意し、特定の保険会社又は特定の保険契約へ恣意的に誘導するものとならないよう管理・検証する必要がある、とされています(No.35)。意向把握にシステムを活用する場合の注意もあります。
選定ロジック、使用データ、比較対象商品の範囲、推奨理由等が、手数料水準、販売目標、保険会社からの便宜供与等の代理店側の都合が介在することにより、特定の保険会社又は特定の保険契約への誘導とならないように留意することが望ましいと考えます。 — 別紙1 No.20(抜粋)
WEBのランキングや「おすすめ」表示については、出すタイミングにも触れています。
とりわけランキングやおすすめ表示については、提示するタイミングによっては、顧客意向の恣意的な誘導に繋がりかねず — 別紙1 No.755(抜粋)
現場での確認ポイント: 比較ロジックと表示順が、手数料水準や販売目標に引きずられていないか確認する。出力提示のあと、保障(補償)内容その他の契約条件も含めて説明する場面を募集フローに入れる。
場面6 意向推定を使う
ここだけ覚えるなら: 意向推定の方法自体は否定されていません。特定の保険契約の選別・推奨をあらかじめ企図し、意向を恣意的に形成・解釈すると、潜脱に該当し得ます。
これまで(ありがちな運用)
特定商品ありきで意向を推定し、その商品に絞り込む。これから(改正後に求められる考え方)
推定根拠とその後の意向確認を記録し、事後検証可能にする。特定の保険契約の提案を前提として当該契約に適合するよう意向を推定する場合や、形式的に意向推定の手法を用いながら実質的に特定の保険契約の選別・推奨を行う場合には、一般的には、誘導又は比較推奨販売規制の潜脱に該当し得ます。 — 別紙1 No.307(抜粋)
もともと意向推定は、保険会社の営業職員が顧客の自宅や職場などを訪問し、顧客属性や生活環境等に基づき推定したうえで、双方向的なやり取りを通じて意向の明確化を図る場面を想定したもの、という説明があります。乗合代理店で用いる場合の位置づけはこう書かれています。
乗合代理店において意向推定の方法を用いるとした場合には、複数の保険契約の中から選別・推奨が行われることとなるため、意向推定の合理性・妥当性が推奨販売の適切性に直結し得ることとなります。 — 別紙1 No.307(抜粋)
現場での確認ポイント: 意向推定を用いた案件は、推定の根拠、その後の意向確認、選別・推奨との対応関係を記録する。特定の保険契約ありきの推定になっていないかを点検する。
場面7 損保で商品の差が小さいとき
ここだけ覚えるなら: 自動車保険のように差が小さくても、差が小さいこと自体は推奨理由になりません。重視し得る事項を確認し、合理的かつ一定の具体性のある基準で選ぶ必要があります。
これまで(ありがちな運用)
差が小さいのでいつもの会社・付き合いの会社で提案する。これから(改正後に求められる考え方)
免責・特約・事故対応・保険料水準等を重視事項として説明する。メーカー系の自動車保険など、補償内容が近く、顧客が選びにくい場面は現場でよくあります。パブコメでも「おすすめを教えてほしいと言われた場合、恣意的でない聞き方は何か」という問いが出ています(No.16)。回答の骨子は、場面1と同じです。おすすめ希望や一任だけでは、任意の選別は適切ではない。
差が小さい場合の柔軟な対応を求めるコメントに対して、金融庁は次のように述べています。基準や理由の中身は、顧客の意向や商品特性により異なるため、一概には示せない、と。
一般論としては、特定の保険契約を提案する場合には、具体的な顧客の意向に照らして、保障(補償)内容や保険料水準などについて、当該保険契約を提案した主な基準や理由等を、顧客が理解できるよう説明する必要があります。 — 別紙1 No.71(抜粋)
差が小さいから「どれでも同じ。いつもの会社で」は、顧客意向との関係で合理性・具体性を説明できないと、ロ方式の基準を満たしたことにはなりません。事務に詳しい会社であること、付き合いのある保険会社であることも、理由としては適切ではないとされています(No.71)。
現場での確認ポイント: 自動車保険など差が小さい種目でも、重視した事項(免責、特約、事故対応、保険料水準など)と、なぜその契約にしたかを一言残す。差が小さいことを省略の理由にしない。
場面8 共同募集で扱う会社が違うとき
ここだけ覚えるなら: 共同募集であることや手数料配分を理由に、比較対象を共通取扱商品に先に限定することは適切ではありません。
これまで(ありがちな運用)
共通取扱社だけを最初から比較対象にする。これから(改正後に求められる考え方)
顧客意向に基づく選別の結果として範囲を限定する。乗合代理店同士、あるいは乗合と保険会社が一緒に募集する場面です。よくある運用は「両方で扱える会社だけ出す」。金融庁は、平成26年改正時の考え方を変えないとしたうえで、次のように書いています。共通取扱に限られるのは、顧客の具体的な意向を踏まえて共同募集で取り扱う契約が選定されたあとの話です。比較推奨販売の対象を、最初から共同募集の枠に限定してよい、という意味ではない、と。
したがって、共同募集であることや、手数料配分・業務分担等の代理店側の事情を理由として、顧客の意向に先立ち比較推奨販売の対象を共通取扱商品に限定することは適切ではありません。 — 別紙1 No.101(抜粋)
手数料按分のために乗り合い会社だけに絞る運用についても、代理店都合による選別となるおそれがあるとされています。
顧客の意向を適切に把握することなく、手数料按分等といった代理店側の都合であらかじめ保険会社を絞り込んでいる場合、保険募集人や乗合代理店の都合による保険契約の選別となるおそれがあります。 — 別紙1 No.102(抜粋)
共同募集の枠では扱えない契約でも、顧客の意向に照らして重要な選択肢になり得る場合は、単独募集への切替えや、取扱可能な保険募集人への引継ぎ等で、選択の機会を阻害しないことが求められます(No.101)。証跡は一律の様式ではなく、意向把握、比較対象の範囲、推奨理由等を事後検証可能な形で管理することが重要とされています(No.554)。
現場での確認ポイント: 共同募集のトークの前に、共通取扱へ誘導していないかを見る。対象を限るなら、委託契約・覚書上の取扱範囲か、顧客の具体的な意向に基づく選別の結果かを切り分ける。
3. いちばん誤解されているのは記録・証跡
ここだけ覚えるなら: 求められているのは分量ではなく、事後的に確認・検証できることです。記録作成自体が目的化することなく、とされています。
比較推奨販売の見直しと聞いて、証跡保存の負担を心配するコメントが多く寄せられました。回答は、全ての案件について詳細かつ網羅的な記録を一律に求めるものではない、というものです。
全ての案件について詳細かつ網羅的な記録を一律に求めるものではありません。 — 別紙1 No.153(抜粋)
記録作成自体が目的化することなく — 別紙1 No.153(抜粋)
では何を残すのか。金融庁が「記録することが考えられます」として挙げているのは、次の要素です。顧客の主な意向、意向把握の方法、比較・選別の対象範囲、提示・推奨した保険契約、提示・推奨の基準や理由、顧客への説明内容の概要等です。
保存内容、保存媒体、保存方法、保存期間等について、一律の方法や水準を定めるものではありません。
顧客の主な意向、意向把握の方法、比較・選別の対象範囲、提示・推奨した保険契約、提示・推奨の基準や理由、顧客への説明内容の概要等を記録することが考えられます。 — 別紙1 No.156(抜粋)
書式や媒体も決められていません。
紙媒体に限りません。電子データ、システム入力記録、音声データ、録画データ等を用いることも考えられます。 — 別紙1 No.156(抜粋)
顧客の署名・押印付き書面を一律に求めるものではありません。 — 別紙1 No.156(抜粋)
プルダウン方式による記録についても、条件付きの言及があります。
記録システム等におけるプルダウン方式による記録も活用し得ます。ただし、選択肢のみでは顧客意向や推奨理由との関係を十分に確認できない場合には、必要に応じて補足記録を行うことが重要です。 — 別紙1 No.156(抜粋)
確認・検証も、全件確認が前提ではありません。
全件確認を一律に求めるものではありません。 — 別紙1 No.156(抜粋)
かわりに挙げられているのは、規模・業務特性、募集形態、苦情・不祥事の発生状況、特定の保険会社又は特定の保険契約への偏り、保険募集人・拠点ごとの傾向等を踏まえ、サンプリングや重点確認を含むリスクベースの方法です。課題が認められた場合には、教育・管理・指導、社内規則や記録方法の見直し等、必要な業務改善につなげることが求められるとされています(No.156)。
なお、今回の改正が従来の意向把握・確認義務や記録保存の考え方を変更するものではない、という説明もあります。
本改正は、従来の意向把握・確認義務や記録保存の考え方を変更するものではなく、比較推奨販売における顧客意向を踏まえた運用と、その実効性確保を明確化する趣旨です。 — 別紙1 No.152(抜粋)
「一律ではない」ものリスト
| よく聞く不安 | 別紙1の記述 | 参照 |
|---|---|---|
| 全案件で詳細かつ網羅的な記録が必要 | 「詳細かつ網羅的な記録を一律に求めるものではありません」 | No.153 |
| 顧客の署名・押印付き書面が必要 | 「署名・押印付き書面を一律に求めるものではありません」 | No.156 |
| 全件確認が必要 | 「全件確認を一律に求めるものではありません」 | No.156 |
| 保存期間が一律に定められた | 「一律の期間を求めるものではありません」 | No.156 |
| 比較ツールの導入が募集管理態勢の標準的要件 | 「一律に募集管理態勢の標準的要件として求めるものではなく」 | No.35 |
| システムの出力結果の提示で履行したことになる | 「出力結果の提示のみをもって(中略)履行したことにはなりません」 | No.35 |
| 共同募集なら共通取扱社だけでよい | 「顧客の意向に先立ち比較推奨販売の対象を共通取扱商品に限定することは適切ではありません」 | No.101 |
つまりどういうこと?(読者の持ち帰り)
記録の量を増やすことが目的ではない。 あとから同じ観点で確認・検証できる状態にすることが重要です(No.153 / No.156)。
残す要素は No.156 に挙がっている。 主な意向、意向把握の方法、比較・選別の対象範囲、提示・推奨した保険契約、基準や理由、説明内容の概要等。媒体・書式は一律ではない。
確認はリスクベース。 全件確認は一律に求められない。苦情・偏り・特定募集人の傾向等を踏まえ、サンプリングや重点確認を行う。課題があれば教育と規則見直しにつなげる(No.156)。
4. 乗合なら、規模が小さくても体制整備は必要です
ここだけ覚えるなら: 体制整備は規模の大小を問わず求められます。記録方法、部門設置、人員配置、管理手法は一律ではありません。
保険代理店における体制整備については、保険業法施行規則第227条の14に基づき、業務の健全かつ適切な運営を確保するため、その規模の大小を問わず求められます。 — 別紙1 No.659(抜粋)
そのうえで、形についてはこう書かれています。
なお、意向確認の記録方法、部門設置や人員配置、管理手法等についても、一律の対応を求めるものではありません。 — 別紙1 No.659(抜粋)
独立した内部監査部門を置けない乗合代理店でも、自社の規模・業務特性等に応じた実効的な体制を整備することが重要、という書き方です。
5. まとめ: 体制整備は3つに整理できる
改正対応は、次の3つに整理できます。何を決めるのか、誰が、何から着手するかを意識して進めます。
| 項目 | 何を決めるか(中身) | 誰が | 最初の一手 |
|---|---|---|---|
| 1. 社内規則 No.79 | 顧客意向の把握方法、重視事項の確認方法、提示・推奨の基準や理由、説明方法、記録・検証方法を組織的に定める | コンプラ・営業管理・現場代表で策定。経営承認 | 現行規程の該当条項を洗い出し、抜けを確認 |
| 2. 証跡保存 No.156 | 主な意向、意向把握の方法、比較・選別の範囲、提示・推奨した契約、基準や理由、説明概要を残す。媒体・書式は一律ではない | 現場(募集人)が記録。管理部署が保存・管理体制を整備 | No.156の要素をチェックリスト化し、記録テンプレを見直す |
| 3. 確認・検証 No.156 | リスクベースのサンプリング・重点確認。課題があれば教育・管理・指導と規則見直しにつなげる | 管理部署・コンプラが計画。拠点長・マネージャーが実施 | 苦情・偏り・特定募集人の傾向から重点確認の対象を決める |
施行・適用は2028年3月1日。金融庁は、施行日・適用日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行い、比較推奨販売を適切に実施することが望ましいとしています。
改正後の内閣府令の施行日及び監督指針の適用日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行い、比較推奨販売を適切に実施されることが望ましいと考えます。 — 公表ページ「1.改正の概要」
6. 出典と注記
- 金融庁「令和7年保険業法改正に係る内閣府令等及び『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」(令和8年8月28日)
- 別紙1「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」
- 関連(令和8年3月30日公布・同年6月1日施行分)
編集部より|ほけまる
ほけまるは、保険募集の面談に特化した、高精度・高セキュリティのAIツールです。録音から文字起こし、面談記録の作成までを支援します。上記の制度対応そのものを代替するものではなく、法令適合を保証するものではありません。記録項目や運用は、各社の社内規則および専門家の確認にあわせてご設計ください。
今回の改正で現場が厚くなる三点に、次のように使えます。
- 記録の自動化 — 面談音声から、主な意向、比較・選別の対象範囲、提示・推奨した保険契約、基準や理由、説明の概要といった記録の下書きを作ります。手入力の抜けを減らし、事後検証の材料を残しやすくします。
- 顧客意向の詳細化 — 「お任せ」で止めず、保障(補償)内容、保険料水準、特約など、顧客が重視し得る事項を会話から拾って構造化します。当初意向から最終意向への変化も追いやすくします。
- ロ方式に基づく商品選定の支援 — 把握した意向に沿った選別・推奨の理由を、記録上で確認できる形にします。手数料や販売目標といった代理店都合が理由になっていないかの一次チェックにも使えます。最終的な選定と説明は、保険募集人と代理店の判断です。
上記の制度対応そのものを代替するものではなく、法令適合を保証するものではありません。